EP1-02 大魔女試練

創作 第一章 大魔女試練編
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「大魔女試練、ですか?」

母、レトナ・ティターナに呼ばれた私は、部屋に入るなりこういった。

「あら。…当たりよ。どうして分かったの?」

「年に二回の試練の日はちょうどこの時期ではないですか。」

と、私はにっこりと笑った。
大魔女試練とは、その名の通り、一般魔女が大魔女になるための試練のこと。
例年多くの魔女が試練に挑戦するけれど、多くの人たちは落ちてしまう。
というのも、そもそも大魔女試練を受けるまでが大変だったりするの。
まずは個人の身柄調査。過去になにか問題を起こしていないかなどの確認を厳しく行われる。これを通過するのはそんなに難しくない…わね。
次に本格的な試験。それは3つあって、一次試験、二次試験、そして最後に大魔女試練と呼ばれる最終試験。
一次試験は主に筆記。魔界の知識があれば受かるペーパーテストだけど、ある程度の知識がないと突破できない物。この一次試験まで受かったら、二次試験で落ちても半年後にまた二次試験から再挑戦ができる。
二次試験は実技。教官の指示する魔術を披露。それを乗り越えてやっと最終試験…いわゆる大魔女試練にたどり着ける。
__ここまでの情報は、もう私は全て把握していた。

「そのとおりよ。身柄調査と一次試験は三日後、二次試験はその四日後、そして最終試験はその一週間後。今日からちょうど二週間後よ。急だけれど、今回の試験を逃すと次は半年後ね。どうす―」

「勿論、受験します!」

「判断が早い!」

お母様は少し食い気味に私にツッコんだ。お母様、キャラが変わっていますよ。

「急でも関係ありません。大魔女になると目標を立ててから今まで、筆記も実践も常に鍛錬を重ねてます!問題ありませんよ!」

「い、いやでもねダイアナ。一次試験は三日後よ?流石に急すぎるでしょう?あなたはまだ若い、半年後でも全く問題がないと思わない?ね、そうでしょう。さて、この話は終わりに_」

「…お母様。」

びくっと肩を震わせたお母様は、ちらりと私を横目で見た。
ゆっくりと私は部屋の隅のソファに移動し、座り込んだ。そして、静かに聞いてみる。

「…お母様、私流石に気づいていますよ。お母様は昔から私を試験に行かせたくなかったのでしょう!」

「ええええっ!気付っ…」

慌てて口をつぐんだお母様は私のもとに近づき、そして急に目の前で立ち止まって、さらに部屋の中をぐるぐるとまわりはじめた。
お母様は一見大人しい外見なのに、なぜか奇妙な行動をとっているのを見て、私は軽くため息をついた。
…少し役者になってみようかしら。

「どうしてですか?私、そんなに大魔女に向いていないのでしょうか…こんなにがんばってきたのに、お母様は反対するんですものね…ううっ…」

「そっ、…そんなことないわ!そう、そんなことは断じてないのよ!!」

軽く泣き真似をした私にまんまと騙されたお母様は慌てて白状した。

「違うのよ。…どうしても心配なの。あなたは一次試験も二次試験もきっと合格する。それは母親の私が大いに保証できるわ。……でも…」

「でも?」

お母様は俯いて、呟くようにこう言った。

「…大魔女試練…最終試験はまた別物だもの。」

最終試験。この試験だけ、公に内容が発表されていない。つまり未知数の試験。
そして、一度落ちてしまうともう二度と受験することができない。つまり…大魔女になる道が断たれてしまう。
ふう、とため息を付いてしまったお母様を、私は優しく抱きしめた。

「私は大丈夫ですよ、お母様。どんな結果でも受け入れる覚悟はもうできています。それとも、私のことを信じてくれないの?」

「いいえ!信じないだなんてそんな……ダイアナ。私はこの試練を昔受けたから、最終試験の内容を知っているわ。」

「…ええ。」

「昔から聞いているけど、もう一度聞くわ。…内容、本当に私に聞かなくていいのね?」

よく周りの魔女からも「自分のお母様が昔大魔女試練を受けた、だなんてそんな魔女滅多にいないのに、どうして聞かないの?」ってずっと言われ続けてきた。
でも、私は正々堂々と試験を受けて、立派な大魔女になりたい。その一心でずっと鍛錬を積み重ねてきた。

「はい。」

まっすぐとお母様の撫子色の瞳をじっと見つめる。何を言われたって気持ちを変えるつもりはないっていう覚悟を伝えるために。

「……そう、ね…」


―――――――――――――――――――――――――――――――――

私は本当にじっくりと考えた。娘のために今、どうすべきなのか。
私をじっと見つめる、魔女学校を卒業し、大魔女になることだけを目指すダイアナは、もう大人の顔をしている…

「………しょうがないわね。私もあなたの夢、ずっと応援してきたもの。
いいわ。三日後の一次試験を受けなさい!そして、絶対に合格するのよ!」

「…!本当?」

「ええ…う…でもやっぱり心配よ…」

「ふふふ…今の言葉、一言一句逃さずにちゃんと言質取ってますからね!今更ダメだなんて言わないでくださいよ!」

「げ、言質っ!?」

「それでは失礼しますね、お母様♪」

スキップ混じりで部屋を出ていった娘を見て、私は呆然とした後、苦笑を浮かべた。

「ふふ…もう、あの子は昔からずっと変わらないわね…あれだけ大人しそうな外見をしているのに、中身はまだまだ子供っぽいんだから。
…本当に実力がないと大魔女になんてなれないわよ。ダイアナ。私だって…いま大魔女として生きているのが不思議なくらいだもの。でも、
―がんばってね。貴女ならきっとなれるわ、ダイアナ。」

数十年前の自分の記憶が思い返される。
未熟で不安定だった私を大魔女にして、そしてそんな私の娘を大魔女試験に送り出せるまでになったのはきっと、あの子達のおかげ、よね。

「あの時のあの子は、まだ元気にしているのかしら。」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


(やっと、今までの鍛錬の成果を発揮できるわ!)

私は嬉しさのあまり家を出て庭を抜けて、そのまま魔界の街へと飛び出してしまった。
さて…これから何をするべきか、もうとっくの昔からシミュレーションして考えてきたわ。

「やっとお母様から許可をいただけた…後は合格するだけ!私が大魔女になれる未来はもう近いのかも…!ふふふ、そうなったらいっぱいやりたいことがあるわ!…でも、何よりもまずは、大魔女になれたのなら…
__今の歪んだ魔界を、必ず私が救ってみせる。」

私は鋭い眼差しで、多くの魔界人達が賑わう魔界の街を見つめた。
大魔女になったあかつきにはこの世界を救う、と覚悟を決めた私は、この世界の異変にもう気付き始めていた。


次回 第三話「友達」

ハノウ


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